イルカになる為に

イルカの様に水中を泳ぐためにはどうしたらよいかについて

イルカと人との外観構造については説明しました通り大変似通った比率を持っていますが、人に欠けている部分も又あることが
判りました。 ここではこの不足部分を補ってイルカの様に泳ぐために必要なパーツについて考えてみたいと思います。

私たちは、シュノーケリングをする際には、マスク、フィン、シュノーケルの3点セットを用いると思います。
これにスキンダイビングをする際には、腰にウエイトベルトを着けたりして浮力調整します。
① シュノーケルはイルカが呼吸をするために備えている背中の噴気孔と同じ役割。
② マスクは、海水の浸透圧の問題と屈折率の解決に役立ちます。
③ 足ヒレは、足の甲の面積を補い、イルカのテールの様に柔らかい素材の反発を利用して効率よく推進力を生み出します。

さて、これで一通り水中世界を楽しむことが出来るわけですが、人は二本足なので、左右の足をバラバラに動かすことが出来るので、この左右の足をそれぞれに反復運動させるバタ足が一般的な遊泳方法です。
しかし、魚もイルカも基本的には脊椎の周囲の筋肉を動かしてウェービングでの移動をしています。
今回私たちがイルカになる為には、効率の良いドルフィンキックを学ぶ必要があります。

では、ドルフィンキックによるスイムは、何が異なるのでしょうか。
結論から言いますと、使う筋肉が違ってきます。 太ももに頼ってきたスイムから体幹によるスイム、または体幹と太ももの筋肉がタイアップして泳げるという点にあります。
冒頭で高速で泳ぐマグロの話をしましたが、マグロは、しっかりとした赤身の普通筋と脊椎の左右に広がっている血合筋を持っています。この血合筋こそ、休むことなく一生泳ぎ続けられるマグロの秘密兵器なのです。

さて、ドルフィンスイムでは体幹筋を使うといいましたが、人が海中でフィンを履いてドルフィンキックで移動するイメージを持ってください。この時、両手はどこに置いているでしょうか? 胴体に沿わせて大きくウェービングしてイルカの様に移動しているかもしれません。それは間違いではありません。
でもより効率よく進むためには、両手を頭の上に上げて抵抗を減らしてストリームラインをとる方も多いと思います。
このストリームラインの為の両手をあげているのには、実は2つのメリットが有ります。
1つ目は、そのままでは頭と肩に受けてしまう水の抵抗を、ロケットの先端の様に手で切り裂く事で減らすという目的です。
2つ目は、フットフィンで発生した上下運動の反動を、体の先端の質量を高めることで打ち消す目的です。
これは、高速で泳ぐ魚類の重心が頭部に近い位置にあることと関係します。

説明1で人とイルカの体型差について述べましたが、人の体の中心はどこかと言えば、一般的にヘソ部分が重量の中心といわれています。 人は腰の部分も大きな重量となり、胴体の重量バランスではイルカやマグロに比べて下に寄っているのでは無いでしょうか。
そうなると、フィンと太ももを大きく動かした反動は、質量の少ない頭部への大きな上下運動となって帰ってきます。
だから、手を頭の上に伸ばすことで重量バランスを魚類に近い位え置に持ってきていることがメリットとなっています。

イルカやシャチは前ビレを持っています。単なる方向転換用の手と考えられているかも知れませんが、これもちゃんと高速移動に大きく貢献しているのです。 先ほどの質量バランスと同じく、尾びれで受けた上下の反動を上半身の比較的上の位置で水を抑えることで打ち消す作用があると考えられます。
マグロが突進速度で移動するときには、普通筋を使いますが、この時はキックの振動速度は非常に高く、ゆえに胸鰭と背びれは畳んだままでも直進性が維持できるわけです。 これは水泳選手が高速でバサラキックをする時と同じ状況と考えられます。

私たちが水中を効率よく移動しようとする時には、フットフィンで生じた反動を如何に打ち消しつつ効率の良い推進力に変えるかが、大きなポイントとなります。 下図は、フィンキックの反動を如何に海洋生物が打ち消しているかを分析したものです。
水中で最速と言われているカジキ(ここでメカジキの形状)からマグロ、シャチとイルカの体型を比較してみました。  
先ず質量が最大となる体重の中心部分(〇)を想定しました。
次にこの質量の中心線から先端までの距離(A )と尾びれまでの距離(B)の比較を行ってみました。 (黒縦線は体長の中心線)
最速のメカジキは、吻と呼ばれる角の部分をどこに設定するのかという問題がありますが、体積が大きくなる位置を先端としています。
この比較により、AがBに対して最も小さい比率となるのは、メカジキとなります。 
 メカジキの速度の秘密には、体から油を分泌して抵抗をおさえているという要素もありますが、大きな尾びれを長いストロークで左右にふり、これを前体重と吻の抵抗により左右にぶれない様にし、直進性を高めていると考えられます。
 マグロも完全な流線型により抵抗を抑え、大きな尾びれで高速でストロークした左右への振動は大きく発達した背びれで抑えられ、また頭部の大きな質量によって消しされていると考えられます。
 シャチも高速で泳ぎますが、同様に完全な流線形の体を持ち、上下にストロークする大きな面積尾びれのウェーブに対して、同じく大きな面積の発達した前ビレと頭部の質量によって上下動を抑えて直進性を高めているのではないでしょうか。
 イルカは高速で泳ぐ部類に入りますが、重心が後ろよりで、胸ビレの面積は少し小さくなり、高速移動で頭部の上下動は多少大きくなる様です。
以上、すべて速い海洋生物の特徴として、体長の中心距離よりも質量の中心が前にある事で直進性が高められ、又尾びれから生じる反動を背びれや哺乳類ならば胸鰭を用いて軽減させています。
さて、人間ですが、体の重心部分は、ヘソの位置にあり、イルカと比較しても後方になり、基本的に体長の中心線と一致しています。
よって、足ヒレから受ける反動を上半身の重量でカバーすることが難しくなり、どうしても手を挙げてカバーする必要があります。
これによって重心位置をある程度前方向に移動することができます。

2つ目にイルカやシャチは胸ビレによって反動を打ち消す作用が有ります。多少の差はありますが尾びれと胸ビレの面積はほぼ一致するように見受けられます。
一方で、人の手の面積では、足の甲の面積に対応できますが、足ヒレを履いてしまうとバランスが崩れてしまいます。
やはりイルカの様に体幹のウェービングを美しく完成させるには、上半身に胸ビレを持つ必要が出てきます。
そこで提案するのが、胸ビレの役割をするボード(pectral fin board)です。
この胸ビレの役割のボードには、3つの役割があります。
1つ目に、理想的なウェービングを作り出すこと。= ウェーブを自ら作りこれに乗る。
2つ目に、シャチの胸ビレの様にフットフィンによる反動を受け止める作用。 =ボードの上下動抵抗によりフットフィンを動かす。
3つ目に、積極的に体幹筋を使うことが出来て、長距離を楽に泳ぐ効果。 =足の普通筋に頼らない泳ぎを可能とする。

力学的な分析では、一般的な魚の泳動数値は、0.6前後と言われます。これは、遊泳速度を体長×周波数で割った数値で、1振り(1ウエーブ)で体長に対してどの程度の移動を可能としているかという目安です。
イルカの場合は更に効率が良く、平均5m/s(回遊速度)の場合、5.0m/s÷(体長2.4m×2.0Hz)=1.04となります。
実際にドルフィンスイムボードによるプール実験では、25mを12キック=(ウェーブ)で25秒(秒速1.0m)でゆったり移動できています。 これは、1.0m/s÷(体長1.7m×0.48HZ/s)となり、泳動数は1.225となります。このことから、非常に効率の良い水中移動を可能にしているとも言えそうです。

 ( 3.「水中のウェービング移動方法」に続く。)